
ブラガイ(Blagaj)旅行記|静寂と祈りが流れるイスラム教の聖地を巡る
目次
Toggleモスタルから少し離れた場所に、ブラガイという小さな村があります。
断崖の下から静かに湧き出す水、岩に寄り添うように建つ白い修道施設。
そこには、説明を必要としない静けさが流れていました。
サラエボやモスタルで、人間が作り出した悲しい歴史と向き合ったあと、この場所に立ったとき、心がふっとほどけるのを感じました。
ブラガイは、何かを強く訴えかけてくる場所ではありません。
ただ、水と祈りが長い時間をかけて共存してきた、その事実が静かにそこにあります。
この旅では、ブラガイという場所で出会った、言葉にならない感覚を記録しておきたいと思います。
ブラガイ(Blagaj)とは?

ブラガイ(Blagaj)は、ボスニア・ヘルツェゴビナ南部、モスタールから約15kmの場所にある小さな村です。この地が知られる理由は、断崖の下から湧き出すブナ川(Buna River)の源流と、そのすぐそばに建つテッケ(Tekke)と呼ばれる修道施設にあります。
切り立った岩壁、静かに流れる水、そして白い建物。
初めて目にした瞬間、ここが「観光地」である以前に、祈りの場所であることを直感的に感じました。
ブラガイは、モスタルから日帰りで訪れることができます。
同じ旅の中で訪れたモスタルでは、スタリ・モストを中心に、戦争の記憶と現在が交差する街の姿を見つめました。
モスタルの旅行記は、以下の記事で紹介しています。
▶モスタル旅行記|破壊された石橋スタリ・モストと赦しを選んだ街
モスタルからブラガイへの行き方

バス・タクシーでのアクセス
モスタル → ブラガイ
タクシー:約20分
路線バス:モスタル東側のバスターミナル周辺からローカルバスあり(本数少なめ)
バス停に時刻表があるので事前にチェックしましょう。時間はわりと正確でした。
時間に余裕がない場合はタクシーが便利ですが、ローカルバスを使うと、周辺の生活風景も垣間見ることができます。
出発前の予備知識をまとめた▶ボスニアヘルツェゴビナってどんな国?治安や歴史など旅行前に知っておきたい基本情報もあわせてご覧ください。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナの世界遺産から静かな穴場まで、実際に訪れて印象に残ったスポットは、別記事でまとめています。こちらもチェックしてみてください。
ブラガイの見どころ

ブラガイとは、モスタルからの1日観光としても人気のスポット。モスタルとは全く違った雰囲気のスピリチュアルな空間を楽しめます。
ブナ川の源流(Vrelo Bune)

ブラガイ最大の見どころは、断崖の奥から大量の水が湧き出すブナ川の源流です。水の流れは非常に穏やかで、周囲の断崖や緑と調和した静かな景観が広がります。
実際に訪れると、水は驚くほど透明で、音を立てずに流れ出し、空気そのものがひんやりと澄んでいました。源流部のエメラルドグリーンに輝く水面はとくに印象的です。

この川はヨーロッパでも有数の湧水量を誇るとされ、古くから「命を育む水」として人々に大切にされてきました。川のそばに立っていると、時間の流れがゆっくりとほどけていくように感じられます。
川沿いには遊歩道やレストランがあり、景色を眺めながらゆったりと過ごせるのも魅力です。観光地でありながら喧騒は少なく、ヘルツェゴビナ地方の自然の美しさを落ち着いて体感できる場所です。
ブラガイ・テッケ(Blagaj Tekke)

ブラガイ・テッケ(Blagaj Tekke)は、断崖絶壁の岩山のふもと、ブナ川の源流近くに建つスーフィー(イスラム神秘主義)の修道院です。15〜16世紀に建立されたとされ、自然と宗教建築が一体となった独特の景観で知られています。
白い建物と岩壁、透明な川のコントラストは非常に美しく、ボスニア・ヘルツェゴビナを代表する写真スポットの一つです。

内部に入ると、装飾は決して派手ではなく、どこか質素で、心を内側へ向かわせる空間でした。ここは祈りと瞑想のための場所であり、今も静かな信仰の空気が保たれています。
宗教の違いを超えて、「静かに在ること」そのものが祈りなのだと、教えられているように感じました。
観光地でありながら神聖さが保たれており、訪れる人の心を落ち着かせてくれる場所です。
川沿いのカフェ|水音とともに過ごす時間

ブナ川の源流近くには、川にせり出すように建つ小さなカフェやレストランがいくつかあります。
派手な看板もなく、観光地らしい賑わいもありませんが、水の流れに耳を澄ませながら腰を下ろすと、自然と会話の音量が下がっていくのを感じました。

食事をしているとテーブルのすぐ足元を、冷たく澄んだ水が流れていきます。川の色は時間帯や光の入り方で微妙に変わり、眺めているだけで気持ちが落ち着いていきました。
そして、イスラム教の聖地なのに、なぜかビールも飲めました。これが多民族、多宗教のおおらかさでしょうか。

ここでは、何か特別なことをしなくてもいいのだと思います。
ただ好きなものを飲み、水音を聞き、流れる時間に身を委ねる。
それだけで、旅の疲れが静かにほどけていく場所でした。
ブラガイの街|静けさが日常として続く場所

ブラガイの街は、とても小さく、観光地として整えられた場所というより、人々の生活がそのまま続いている集落です。
白い家々と低い建物、そして背景に広がる岩山。歩いていると、観光のために「見る街」ではなく、「暮らしの中を通らせてもらっている」感覚になります。
通りには観光客向けの店はほとんどなく、聞こえてくるのは鳥の声や遠くの水音、時折すれ違う地元の人の足音だけでした。
サラエボやモスタルで向き合ってきた重たい歴史のあとに、この静けさに身を置くことで、心が少しずつ元の呼吸を取り戻していくように感じます。
ブラガイは、強く記憶に残る風景を押しつけてくる街ではありません。
けれど、旅が終わったあと、ふとした瞬間に思い出すのは、こうした静かな場所なのかもしれません。
首都サラエボは、東西の文化が交差し、ボスニアという国の複雑な歴史を肌で感じられる街です。サラエボを巡りたい方は、モデルコース付きの記事も参考にしてみてください。
ブラガイで感じたスピリチュアルな時間

ブラガイは、多くを語りかけてくる場所ではありません。
ただ、水が流れ、岩が立ち、祈りの場がそこに在り続けているだけです。
けれど、その「変わらなさ」が、旅の中で疲れた心をそっと整えてくれました。
サラエボやモスタルで重たい歴史と向き合ったあと、この場所に立ったことで、
悲しみのあとにも、静けさと回復の時間は確かに存在するのだと、実感できた気がします。
ブラガイは、何かを学ぶ場所というより、
「何も足さず、何も削らず、ただ感じる場所」でした。
まとめ|旅の途中で立ち寄りたい、静かな祈りの地

モスタルからほんの少し足を延ばすだけで出会えるブラガイは、観光地として派手さはありませんが、深く心に残る場所です。
歴史を辿る旅の途中で、「言葉を持たない静けさに身を委ねる。」
そんな時間を必要としている人に、そっとすすめたくなります。
サラエボやモスタルの悲しい過去の歴史と向き合う旅のあとに、静かに呼吸を取り戻す場所、ブラガイは、その「間(ま)」として、とても美しい役割を果たしています。
悲しみに目をそらさず、でもそこに留まり続けない。
旅する皆さまが、呼吸を取り戻せる場所を旅の中に見つけてることができますように。
※当記事の情報は実際に旅した際の体験と、調査時点の情報をもとに執筆しています。可能な限り正確を期していますが、万が一情報に誤りや更新漏れがある場合は、お手数ですが「https://tabilapin.com/contact/」よりご連絡いただけますと幸いです。確認の上、迅速に対応・修正いたします。
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